近代建築は失敗だったと前川國男は悩んでいた?

6月26日、JIA金曜の会主催で大宇根氏の講演が20名を越える参加者の中、行われた。金曜の会はJIA館1階に設けられた建築家クラブという名のサロンの活用を促す会で、月に1度のペースで催し物が行われている。今回はその推進者である大宇根氏に講演を頂いたのである。「近代建築は失敗だったと前川國男先生は悩んでおられた」から講演は始まった。前川事務所の右腕として実務をする中で、内側から見る前川氏は打放しコンクリートに代表される近代建築について悩まれていたとのことである。すなわち、メンテナンスが不十分な打放しコンクリートの剥がれ、汚れなどのひどい実状に心を痛めておられたのである。その苦悩の中から熊本県立美術館の型枠にタイルを取り付けてコンクリートを打つという、打ち込みタイルが生まれたのである。埼玉県立博物館など建築メディアに華々しく取り上げる影に、実は問題があったと大宇根氏はふりかえる。タイルの裏のコンクリートにジャンカが入り、水みちができる例などである。山梨県立美術館や宮城県立美術館を担当する中で、氏はこの問題を解決すべく、プレキャストにタイルを打ち込み、外付けする構法を採用した。氏は40歳で独立し、この手法から外断熱した上でレンガ二重壁へと進展させたという。ICUや山梨文学館、山梨県立美術館南館など、外壁は今でも問題は無い。氏のレンガでつくる作品が次々に紹介され、レンガの様々な可能性が見えてくる。施主のイニシアルが入ったレンガ建築、ローコストなレンガ建築、改修で用いたレンガ建築などである。氏のレンガへの想いと信頼感は徹底している。ホームページを見ても、すべてと言ってよいほど、氏の作品はレンガの建築である。「なぜ、ここまでレンガなのか」の質問に、氏は、「他の材料の多くはシールで持たせている建築であり、シールはいずれダメになる。そのような建築は作りたくない」と応えた。「構造をそのまま表わすという近代建築の思想とは異なり、レンガを組石造として使わずに表皮として使っており、ある意味ポストモダニズムと解釈できるのではないか」の質問には、「レンガの特質を合理的に使っているのでそうではない」と氏は言い切った。前川氏と大宇根氏の建築は異なるが、その立つ位置は合理性を信じる筋金入りのモダニストで、師の心をしっかりと継承していると思えた。
 講演の後の参加者との交流も盛り上がった。大宇根氏は「講演の前からワインを出しましょうね」と言っていた。リラックスした雰囲気の中、ワイン片手に講演を聴き、ディスカッションする。建築家のサロンならではのひと時であった。